9月は手術が20件を超え、小病院の伊藤病院としては異例の多忙さであった。
そんななか、月末の午前診療中に「胃がむかつく」との訴えで37週の妊婦さんがいらした。
赤ちゃんの心音には異常はなかったが、血圧が150/90と上昇している。陣痛はないが、おなかを触ると子宮に軽い緊満がある。
ご本人は元気であったが、このまま帰宅してもらうには不安がある。
当院の入院か転送か迷ったが、妊娠中毒症の時によく見受けられる胎盤早期剥離も疑われたので、京都府立医大周産期部に転院の手配をして、精査をお願いした。
府立医大に入院すると、血圧がみるみる上昇し、200を超えた。肝臓の検査結果も悪くなっており、昼過ぎに緊急帝王切開による分娩となった。
対応が早かったため、母子ともに元気とのことである。
この急性疾患は、Hellp症候群といって、よく風邪や胃腸の病気と間違われることがある。産科医にとっては早期に診断しにくい妊娠合併症である。 しかし、放っておくと数日のうちに赤ちゃんがおなかの中でなくなり、母体もDIC(血が止まらなくなる状態)に陥り。命を落とす。
Hellp症候群:臨床的に、重篤な妊娠中毒症のひとつともみられるが見解は一致していない。①溶血(赤血球が溶ける)、②肝障害、③血小板減少が主徴の症候群で、胎児の死亡率10~40%、母体死亡率5%程度の突発して起こる怖~い妊娠合併症。
HELLP症候群の発症は、伊藤病院では大変に稀で、10年に一度あるかどうかだが、いつ母体がこのような状況になるかわからない。患者さんが早く受診し、早く大学病院に転院し、早く帝王切開がされたことが、母児の安全な結果につながった!
一連の流れとみんなの運がよかったのだろう・・・、ほっとした。