当院では、10年近く前(1997年頃)から、産まれた赤ちゃんをチャイルドシートに乗せて退院していただく啓発活動を始めました。・・・日本で初めての試みでした。
当時、この企画を病院のスタッフに提案したところ、ほとんど全員から「えーっ!」と、ひどく反対されました。当院で産まれた赤ちゃん全員が対象でしたから、「半ば強制的では妊婦さんに迷惑がかかる」、「伊藤病院に誰もお産に来てくれなくなる」、「忙しいので対応できない」などが、反対の理由でした。
私は反対や障壁があると俄然頑張る性質(たち)で、「産まれて来た子どもたちの命を守るためだし、しいてはその子のご家族のためでもある。このような過激な啓発を提唱をする産婦人科医は変わり者かな?」、「伊藤病院だからこそできる社会貢献だと思うよ」とスタッフたちに居直りました。
その結果、周産期を通じて、次のようなことを実施することを条件に、スタッフの全面協力を得ることができました。
1.産まれてきた赤ちゃんの命の大切さと、それを守る方法を教える。
2.不慮の事故が子どもの死因の一位であることを伝える。
3.チャイルドシートを安く購入できるシステムを導入する。
4.院内に無料貸し出しができるチャイルドシートを準備する。
5.チャイルドシート着用実地教室を開催する。
6.この活動を全国の産院に拡大する。
7.将来は、チャイルドシートのみならず、子どもの事故全般に対して啓発運動を展開する。
こうして、早速、伊藤病院でお産をされる妊婦さんたちに、「お子さんにとって安全な家庭環境が如何に大切か」、「チャイルドシート着用を通じて、子どもの安全に対する親たちの意識を高めてほしい」と訴えはじめました。
啓発活動を始めた次の月から、自家用車で退院されるお母さんたちのほぼ全員が、赤ちゃんをチャイルドシートに乗せて退院してくれました。伊藤病院の患者さんたちは私の唐突な提唱を理解していただく豊かな気持ちをお持ちだったのです。
チャイルドシートに座って退院していく赤ちゃんを見て、大変に感激したのを昨日のことのように覚えています。
SAFE KIDS JAPANの設立を目指した1997年6月のことでした。 (つづく)