埼玉県で子どもへの虐待防止の条例案が提出され、物議を起こした。
マスコミは声高にバッシングし、一部の知識人は「子どもによって大人の行動が制限されることは憲法違反だ!」とまで騒ぎ立てた。結局、法案の具体的対象が我が国の実情にそぐわないと、条例案の提出は撤回された。
しかし、ちょっと残念なことに、その提案の
背景にあっただろう「子どもを守るという社会文化の醸成」にひとこと触れた記事や報道は一切なかった。
私は産婦人科医の経験から子ども(特に乳幼児)の事故防護活動を行なってきた。
そのひとつが走る自動車内における乳幼児拘束装置(チャイルドシート)の着用啓発だった。
即ち、走る自動車内で親だけがシートベルトをして子どもは自由に遊ばせておくこと(放置にあたる)は、事故にあった時に子どもを危険に晒すから、保護者の安全確保違反であると言える。
つまり、子どもが自分で危険を察知して回避できない状況に子どもを放置することは、「未必の故意(事故や事件が起こるかも知れない)」という広義の虐待であるとも理解されるのだ。
誘拐など治安の悪い外国では幼い子どもを守るのは保護者の義務という考え方があるのはよく知られている。
これに対して、日本社会は子どもに対する治安がとても高いから、埼玉県のフライング気味の提案は少々ばかげてていたことは否めないが、その背景には「子どもを守る成熟した社会の醸成」という考え方があったのではないだろうか?
その事に触れた報道やコメントが一切みられなかったことは少し残念な気がした、というのが私の感想だ。