先日来、群馬医大や千葉がんセンターの腹腔鏡手術成績がマスコミに取り上げられている。
腹腔鏡手術の草創期から(注1)その歴史を体験してきた私としては、聞くに残念な出来事である。
それぞれの事象についてコメントをする立場にはない〔注2)が、
一般論として、はたして腹腔鏡手術は危険なのだろうか?
答えはイエスであり、ノーでもある。
言えることは「危険ではないが、難しい手術」であることだ。
それは術者に卓抜した手技と治療の全体を俯瞰できる豊かな人間性を要求するからだ。
・・・どういうことだろう?
腹腔鏡手術は術者の権限と責任範囲が普通の手術に比べて高い。
その理由はここでは控えるが、ほとんどすべての決断が術者に委ねられる。
執刀責任に真摯な人間性までが重視されると考えてよいだろう。
つまり、術者が自分の技量のぎりぎりかそれを超えて手術を行い、
撤退する(術式を変える)勇気を持たずに腹腔鏡手技を無理に続行したら、
そこには安全マージンがなくなって、大変危険な状態に患者を曝す行為となりかねない。
腹腔鏡手術に限らず、医療施行は最終的に医師の裁量に任せられているといえる。
同時に、結果が悪い場合は担当医師の責任にされやすいところがある。
世間を騒がせている飛行機の操縦士の責任のあり方と似ている。
(真相解明のために真実を隠さない、その代わりミスの個人的責任は問われない)
今回の事象が真相解明をされずに、術者だけの責任で処理されるとすれば、
腹腔鏡手術の世界でも、その進歩を妨げる裁量になる危険性があるようだ。
第3者委員会(?)なるものが判断しているのであろうが、
どうも現場スタッフだけの責任にして事を終わらせようとしている不安は拭えない。
つづく
注1:腹腔鏡下胆嚢摘出術が爆発的に普及し始めたのは1990年前半だった。
その後、外科領域では消化器系の手術が次々と成功してゆく。
私は外科より以前の1980年代から婦人科領域の腹腔鏡手術を行っていたので、
外科手術の発展の経緯を間近に見ることができた。
注2:今回の腹腔鏡手術は、難しいとされる肝臓、胆管、すい臓系の手術であり
婦人科の私から手術の評価ができるものではない。